あなたは自分の呼吸が浅いか深いか、ご存じですか?
呼吸は生まれたときからずっと当たり前のようにしているため、改めて呼吸のやり方を教えてもらう機会はありません。
実際レッスンでも、「自分以外の人の呼吸を知らないので、自分の呼吸が浅いのか深いのかもわからない」という方がとても多いです。呼吸が止まったら死んでしまうというのに、私たちは普段、呼吸にあまりに無頓着です。
「ポーズをしているときの呼吸ってどうしたらいいの?」
「呼吸法を練習してみたいけど、どんな種類があるの?」
ヨガを始めると、そんな疑問が出てくるのではないでしょうか。
この記事ではヨガの練習で大切とされている呼吸に関することをまとめ、動画で一緒に練習していきたいと思います。
この記事の目次
ポーズをしているときの呼吸
ヨガのポーズをとっている間は、基本的には“鼻から吸って、鼻から吐く”鼻呼吸をします。
しかし、慢性的に口呼吸になっている人や、心肺機能が弱っていて深い呼吸ができない人にとっては、鼻呼吸が苦しく感じられるかもしれません。
鼻呼吸が苦しく感じられる場合は、“鼻から吸って、口から吐く”で行ないます。だんだん慣れてきたら、鼻呼吸に切り替えていきます。
しかし根本的には、呼吸を止めないことがもっとも大切です。
鼻からでも口からでも良いのでまずは呼吸を止めないようにし、一生懸命になり過ぎて肩や首が緊張しないようにリラックスして呼吸することを意識してみましょう。
プラーナーヤーマ(調気法)とは
プラーナーヤーマとはサンスクリット語で、直訳では呼吸の制止、呼吸の延長を表します。
“プラーナ”とは呼吸を通して出入りする生命力、“アーヤーマ”とは制止とか延長という意味です。
日本語では呼吸法と訳されることも多いですが、個人的には調気法(じょうきほう)という訳がよりしっくりくると感じています。
調気法とは文字からもわかるように、“気を調える(ととのえる)方法”という意味で、プラーナーヤーマは単なる呼吸のやり方のことを指しているのではなく、呼吸を通して心身内外のエネルギー(プラーナ)を調節する大切な役割があるのです。
インドには、「一生にする呼吸の数は決まっていて、その数に達すると命が尽きる」という考え方があり、呼吸を止め、伸ばし、ゆっくりにすることで、長寿を目指すことができるのです。
プラーナーヤーマでは吸気(レーチャカ)と呼気(プーラカ)のほかに、止息(クンバカ)もコントロールしていきます。
クンバカには2種類あり、吸気の後の止息を“アンタラ・クンバカ”、呼気の後の止息を“バーヒャ・クンバカ”といいます。
吸気と呼気、2つの止息の4種をコントロールし、プラーナを体内に循環させたり充満させたりしていきます。
プラーナーヤーマの種類
プラーナーヤーマにはさまざまな種類があり、その目的や効果も多様です。
ここからはハタヨガの経典『ハタヨガ・プラディーピカー』に載っているものを中心に、プラーナーヤーマの種類とやり方、そして効果について見ていきましょう。
完全呼吸
腹式呼吸と胸式呼吸を同時に行なうのが、完全呼吸です。
最初に腹式呼吸でおなかを膨らませ、いっぱいになったら胸式呼吸で肋骨を膨らませて息を吸い切ってから、胸とおなかを薄くしながら細く長く息を吐きます。弱った心肺機能を活性化させることができ、ヨガのポーズの練習中にもオススメの呼吸です。
【完全呼吸法のやり方】
- 仰向けになり膝を立てて、おなかと腰をリラックスさせる
- 目を閉じて片手をおなか、もう片方の手を胸に添え、鼻から息を吐く
- おなかを膨らませて鼻から息を吸う
- 肋骨も膨らませて鼻から吸い続ける
- おなかと胸を薄くしながら、鼻から息を吐く
- ③~⑤を繰り返す
心肺機能の改善、血中酸素濃度の改善。
腹式呼吸
腹式呼吸は、吸う息でおなかを大きく膨らませ、吐く息で薄くしていく、おなかを大きく動かして行なう呼吸です。
腹式呼吸は横隔膜を大きく上下させることによっておなかに動きを作るので、横隔膜呼吸とも呼ばれます。横隔膜は息を吸うときに骨盤の方に下がりながら収縮し、吐くときに胸の方にあがりながら緩んできます。
普段からのどや胸の上部だけの浅い呼吸をしている人や、猫背気味の姿勢でみぞおちを潰している人は横隔膜が硬くなっていることが多く、深い腹式呼吸がしにくく感じられるかもしれません。
正しい姿勢でないと横隔膜の動きを感じるのが難しいので、最初は仰向けで練習するのがオススメです。
【腹式呼吸のやり方】
- 仰向けになり膝を立てて、おなかと腰をリラックスさせる
- 目を閉じて両手をおなかに添えて、自然な鼻呼吸をする
- 吐く息でおなかが薄くなり、おへそが背骨の方に沈むのを感じる
- 吸う息でおなかが膨らみ、おなかに添えた両手が押し返されるのを感じる
- ③と④を繰り返す
リラックス。緊張や不安で呼吸が浅くなってるとき、眠れないときなどにオススメ。
胸式呼吸
胸式呼吸とは、肋骨の間についている肋間筋(ろっかんきん)を動かしてする呼吸です。
おなかは薄い状態を保ったまま、吸う息で肋骨をすべての方向に膨らませ、吐く息でそれを萎ませていきます。
呼吸で肋骨を膨らませようとすると前側の肋骨ばかりに意識をとられて、多くの人は背中側の肋骨に膨らみを作ることができません。
腹式呼吸もそうでしたが、胸式呼吸も背骨を正しい位置にして初めて、前、横、後ろの肋骨がまんべんなく動くので、これも仰向けで練習を始めるのがオススメです。
【胸式呼吸のやり方】
- 仰向けになり膝を立てて、おなかと腰をリラックスさせる
- 目を閉じて両手をおなかに添えて、鼻から息を吐きおなかを薄くする
- おなかを薄く保ったまま、肋骨を大きく広げて息を吸う
- 広がった肋骨を元の大きさに戻しながら息を吐く
- おなかの動きは最小限にとどめ、③と④を繰り返す
リフレッシュ、エネルギッシュ、活性化。元気がないときや、テンションを上げていきたいとき、眠気覚ましにもオススメ。
カパラバティ
カパラバティとは「光る頭蓋骨」という意味です。
呼吸法として紹介されることも多いですが、『ハタヨガ・プラディーピカー』では、カパラバティは呼吸法ではなくて浄化法として扱われています。
浄化法(シャット・カルマ)は、ヨガの練習をする前に体を浄化する6つの方法のことを指し、カパラバティはプラーナの通りみち(ナーディ)の浄化法として紹介されています。
ナーディの不純物を外に強く吐き出していくので、ティッシュを手元に準備しておくと良いでしょう。鼻詰まりも解消されていきます。
強度の強い呼吸なので、最初は20~30回程度から始めると良いでしょう。生理中は腹圧がかかるので、カパラバティは避けます。
【カパラバティのやり方】
- 安定した坐法で座る
- 背骨を真っ直ぐにして目を閉じる
- 鼻から吸い、おなかを軽くへこませながら一気にフンッと息を強く吐く
- 吐いた息の反動で吸う息が入ってくる
- 一定のリズムで連続して息を吐く
- 決めた回数を終えたら、自然な鼻呼吸に戻る
プラーナの通りみち(ナーディ)の浄化、体に熱を生み出す、脳の働きを活発にし、思考をクリアにする。
ナディ・ショーダナ
ナディ・ショーダナとは「ナーディの浄化」という意味です。ショーダナとは浄化を意味します。
プラーナの通りみちであるナーディは体中に72,000本あると言われており、その中でも重要なのが体の真ん中を通る“スシュムナー”、左の鼻腔から始まる“イダー”、右の鼻腔から始まる“ピンガラー”の3本です。
ナディ・ショーダナは、このイダーとピンガラーに交互に呼吸を通すことでバランスを整えていく呼吸法です。
右の鼻腔に呼吸が通っているときはピンガラー的なエネルギー(太陽、男性性、熱い、能動的など)が強くなり、左の鼻腔に呼吸が通っているときはイダー的なエネルギー(月、女性性、冷たい、受動的など)が強くなります。
【ナディ・ショーダナのやり方】
- 安定した坐法で座る
- 背骨を真っ直ぐにして目を閉じ、左手でチンムドラーを作る
- 右手でヴィシュヌムドラーを作り、親指を右鼻、薬指と小指を左鼻に当てて、息を吐く
- 右鼻を閉じて、左鼻から息を吸う
- 左鼻を閉じて、右鼻から息を吐く
- 左鼻を閉じたまま、右鼻から息を吸う
- 右鼻を閉じて、左鼻から息を吐く
- ④~⑦を繰り返す
- 決めた回数を終えたら、右手を解放して自然な鼻呼吸に戻る
あらゆるもののバランスを整える、自律神経の調整。
ウジャイ呼吸
ウジャイ呼吸とは「勝利の呼吸」という意味です。
コソコソ話をするときのようにのどの奥を半分閉めて、呼吸がこすれる音を内側に響かせて呼吸します。
一気に吸ったり吐いたりすることができないので腹圧が一定に保たれ、呼吸のリズムもポーズも安定しますが、力強く熱を生み出す呼吸のため、汗だくになっている場合には完全呼吸に切り替えてバランスを取りましょう。
【ウジャイ呼吸のやり方】
- 安定した坐法で座る
- 背骨を真っ直ぐにして目を閉じる
- 寒い日に白い息を出すときのような呼吸を鼻から吐く
- のどの奥を半分閉めて鼻から吸う
- ③と④を繰り返す
- 決めた回数を終えたら、自然な鼻呼吸に戻る
熱を生む、呼吸を一定のペースに保つ、ポーズを安定させる
ブラーマリー
ブラーマリーとは「メスの蜂」という意味です。息を吐くときに蜂の羽音のような音を出します。
人差し指で両耳の穴をふさいで呼吸をするので、自分の出している音が頭蓋骨に伝わり、心地よいバイブレーションを感じることができます。
目も閉じることで自分の出す音や振動に集中しやすく、瞑想に適した呼吸法ともいえます。
【ブラーマリーのやり方】
- 安定した坐法で座る
- 背骨を真っ直ぐにして目を閉じる
- 人差し指で耳の穴をふさぐ
- 鼻から息を吸う
- 鼻から「んーーーーー」と声を出しながら息を吐く
- ④と⑤を繰り返す
- 決めた回数を終えたら、両手を解放して自然な鼻呼吸に戻る
リラックス、集中力アップ、瞑想への導入
シータリー
シータリーとは「冷ます」という意味です。文字通り、体を冷ます効果のある呼吸法です。
舌を出して両端を丸めてストローのようにし、口から息を吸って鼻から吐きます。
舌を丸めることができない場合は舌を出してやるか、似た呼吸のシートカーリーをするのがオススメです。
上下の歯を合わせて口角を横に広げ、「いーっ」の口を作り、「シー」という音を出しながら歯の間から息を吸って、鼻から吐きます。
【シータリーのやり方】
- 安定した坐法で座る
- 背骨を真っ直ぐにして目を閉じる
- 口をすぼめて舌を出し、ストローのように丸め筒状にする
- ストローを通して口から息を吸う
- 鼻から吐く
- ④と⑤を繰り返す
- 決めた回数を終えたら、自然な鼻呼吸に戻る
体を冷ます(激しい練習の後や夏の暑いときなど)、メンタルを落ち着かせる
バストリカ
バストリカとは「ふいご」という意味です。ふいごとは、火力を強めるために空気を送り込む道具。
体をふいごのように使って、吸う息も吐く息も強く一気、そしてリズミカルに繰り返します。
先に紹介したカパラバティと似ていますが、カパラバティは吐く息を強くするのに対し、バストリカは吸う息も吐く息も強く行ないます。
強度の強い呼吸なので、最初は少ない数から始めましょう(10回程度から)。生理中は腹圧がかかるので、バストリカは避けます。
【バストリカのやり方】
- 安定した坐法で座る
- 背骨を真っ直ぐにして目を閉じる
- 吸うと吐くを強い呼吸で、リズミカルに繰り返す
- 決めた回数を終えたら、自然な鼻呼吸に戻る
体に熱を生み出す、心肺機能の改善、心身の浄化
呼吸はヨガの練習を深めていくのに不可欠なツール
最初にも書きましたが、呼吸は“今この瞬間”と繋がるとても優れたツールです。
生まれてから死ぬまで呼吸は止まることなくずっと自分と共にありますが、当たり前すぎて呼吸に意識を向けることは日常ではほぼありません。
ですがヨガや瞑想をするときに改めて呼吸に意識を向けると、いろいろな気づきが生まれます。
そしてこの呼吸に意識を向けるということ自体が、過去や未来にすぐに飛んでいくマインドを“今この瞬間”に引き戻してくれるのです。
また、深くゆったりとした呼吸は心身を安定させる効果があります。
毎日約20,000回するといわれている呼吸を、溺れているときのような浅く短い呼吸で過ごすか、深呼吸のような深くゆったりした呼吸で過ごすかによって、一日の疲れ具合も変わると思いませんか?
ぜひプラーナーヤーマの練習も取り入れて、今よりも一段階、練習の質をアップさせてみてください。